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大阪地方裁判所 昭和49年(ワ)4164号 判決 1978年3月29日

原告 沢二郎

原告 沢貞子

原告 深田弘子

原告兼右原告ら三名訴訟代理人弁護士 沢昭二

原告沢昭二訴訟代理人弁護士 大阪谷公雄

同 平山茂

被告 堺日本交通株式会社

右代表者代表取締役 沢巌

右訴訟代理人弁護士 板持吉雄

同 玉井健一郎

同 高澤嘉昭

同 宮崎乾朗

同 丸山英敏

同 川崎壽

同 永田真理

同 荒鹿哲一

主文

一、被告会社の昭和四九年五月三〇日の定時株主総会における第一四期(昭和四八年四月一日から同四九年三月三一日まで)の計算書類(営業報告書、貸借対照表、損益計算書、財産目録、欠損金処分案)を承認する旨の決議を取消す。

二、訴訟費用は被告会社の負担とする。

事実

第一、当事者の求める栽判

一、原告ら

主文各項同旨の判決。

二、被告会社

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決。

第二、当事者双方の主張

一、原告らの請求の原因

1.原告らはいずれも被告会社の株主であり、原告沢昭二は一二一二株、同沢二郎は一二一二株、同沢貞子は一八一八株、同深田弘子は一二一二株を有している。

2.被告会社は資本金一五〇〇万円、発行済株式総数三万株の株式会社であって、請求の趣旨記載の定時株主総会(以下、単に本件総会という)開催時における取締役は訴外沢巌、同田川孝雄、同青海隆盛の三名であり、代表取締役は右沢巌、監査役は訴外沢広行であった。

3.被告会社の本件総会において、前記沢巌が議長となり請求の趣旨記載の計算書類を承認する件(以下、単に本件議案という)を第一号議案、取締役、監査役全員任期満了につき改選の件を第二号議案としてそれぞれ提出しこれを各承認する決議をした。

4.しかし、本件議案を承認する旨の右決議は以下述べるとおり総会招集の手続およびその決議の方法が法令に違反するとともにその決議の方法が著しく不公正なものである。

(一)総会招集の手続が法令に違反する。

被告会社の株主である訴外日本交通株式会社(本店所在地=松江市灘町六五番地の二、いわゆる「松江日交」)が本件総会で行使しうる議決権の数は一万三六三六株であるにもかかわらず、それより五〇〇〇株少ない八六三六株であるとして本件総会の招集通知を発するとともに、被告会社の株主でない訴外福田産業株式会社を五〇〇〇株の株主として取り扱い、右会社に対して招集通知を発している(なお本件総会で右会社に五〇〇〇株の議決権を行使させているので、決議方法も法令に違反する)。

(二)決議の方法が法令に違反する。

イ、訴外沢巌は被告会社の代表取締役、訴外沢広行は監査役としてそれぞれ本件議案の基となる決算に関与したものであり、本件議案の決議につき特別の利害関係を有する者であるから本人自身として議決権を行使しえないのみならず、他の株主の代理人もしくは代表者として議決権を行使することもできない。

しかるに、被告会社の株主である前記沢巌、同沢広行は本人自身として議決権を行使したのみならず、右沢巌は被告会社の株主である訴外深田勝彦の代理人として、また被告会社の株主である訴外日本交通株式会社(本店所在地=大阪市西区新町通四丁目八八番地、いわゆる「日交本社」)、同福田産業株式会社の代表取締役として議決権を行使した。

したがって、本件議案についての決議の方法は商法第二三九条第五項、第二四〇条第二項に違反する。

ロ、原告沢昭二は株主として本件総会に出席し、本件議案の審議に際し、被告会社の決算報告書に記載された事項、すなわち昭和四八年五月二九日開催の被告会社定時株主総会において株式の譲渡制限の規定を設定することを承認可決した件および取締役会の付議事項なかんずく不動産の処分行為についての議案の内容について質問したが、議長である前記沢巌は全く右質問を無視して本件議案の決議を強行した。

これは株主総会の本質についての法の要求に全く違反したものである。

(三)決議の方法が著しく不公正なものである。

イ、原告沢昭二は被告会社に対し、本件総会の直前に至るまでしばしば取締役会議事録等本件総会の審議に必要な書類の閲覧およびその謄写の請求をしたが、被告会社はこれに応じなかった。また、本件議案の実質的審議の前提として、被告会社の代表者である議長は総会において議案の積極的な説明をする義務があるにもかかわらずこれを怠った。

よって、原告沢昭二はとりあえず前記不動産の各処分行為についての各取締役の責任解除を留保する決議のための動議を提出したが、議長沢巌はこれをとりあげて議場にはかることもなく総会を強行した。

ロ、ついで、原告沢昭二は商法第二三八条に基づく検査役選任の動議を提出したが、議長はこれもまた議場にはかることなく総会を強行し、本件議案を議決した。

5.よって、原告らは、本件議案たる計算書類を承認する旨の決議の取消を求める。

二、被告会社の答弁

1.請求の原因1ないし3項は認める。

2.同4項のうち、被告会社の代表取締役沢巌、監査役沢広行がいずれも被告会社の株主であること、同人らが本人自身として、右沢巌が原告ら主張のとおり他の株主の代理人ないし代表取締役として本件議案につき各議決権を行使したことは認めるがその余の主張はすべて争う。

三、被告会社の抗弁

1.訴の利益について

(一)被告会社は昭和四九年一一月一六日取締役会を開催し、右取締役会において臨時株主総会を開催することを決議し、同月二二日被告会社代表取締役沢巌は全株主に招集通知を発送したうえ、同年一二月七日臨時株主総会を開催した。右株主総会において、原告らが主張するいわゆる利害関係人を除いたその余の株主が議決権を行使し主文第一項掲記の本件計算書類を改めて承認可決した。

(二)よって、本件決議になんらかの瑕疵があったとしても本件決議を取消す利益はなくなったので本件訴の利益はない。

2.権利の濫用。

(一)昭和四九年五月二七日、当庁昭和四八年(ワ)第三九二五号事件(原告沢昭二、被告福栄産業株式会社)において、原告沢二郎、同沢貞子、同深田弘子および前記沢巌らも利害関係人として加わったうえ、原告らが強く要望していた右福栄産業株式会社のなした不動産の処分行為を取消し、これが所有権移転登記の回復登記手続をなす旨の裁判上の和解が成立したが、右和解は原告沢昭二、被告会社代表者沢巌間の昭和四八年一二月二四日付協定書を承けて成立したものであり、いわゆる日本交通系列グループ所属会社全体につき右和解以前における沢巌の代表取締役としての不動産の処分行為一切に対する責任を不問にすることを前提とするものであった。

以上のとおり、前記不動産の処分問題は原告らの要望どおり解決ずみで、この問題に関連して被告会社の役員に対し責任を追及する余地はなくなっている。

したがって、仮に原告沢昭二が本件総会において本件議案の決議にさきだち原告ら主張のごとき質問あるいは動議を提出し、議長がこれを無視したとしても、右質問、動議は、前記和解と必然的に結びついた被告会社の役員に対する責任追及等を含むものであって、和解で既に解決ずみの事項について株主の質問権、動議提出権の行使に名を借りた悪質ないやがらせであって権利の濫用であるから、これを無視してなされた本件決議に瑕疵はない。

(二)被告会社先代代表取締役沢春蔵は昭和四七年七月二四日訴外日本交通株式会社本社社長室において死亡したが、同人の息子である原告沢昭二は春蔵の遺体のポケットから訴外日本交通株式会社のロッカーの鍵を取り出し持ち帰った。右ロッカーには被告会社をはじめとする日本交通系列会社の不動産売買契約書や権利証等の重要書類が保管されていた。被告会社は再三にわたり、原告沢昭二に対し右書類の引渡しやその明細を知らせるよう請求したのにこれに応じなかった。

原告らは本件請求において、被告会社に対し書類の閲覧、謄写を要求したのに被告会社はこれに応じなかったと主張するが、原告本人であり、かつ他の原告ら代理人である沢昭二自身は被告会社に対し重要書類の引渡を拒み、かつその明細の告知さえ拒否し、会社運営を妨害している者であるから、被告会社に対し帳簿類の閲覧謄写を求める資格がない。

また、原告沢昭二は昭和四八年五月二九日まで被告会社ほか日本交通系列会社九社の監査役であったし、また原告沢昭二の代理人である大阪谷弁護士は昭和四九年一月二九日から昭和五〇年五月二九日まで前記福栄産業株式会社の監査役であった。したがって、原告沢昭二は被告会社の取引、処分行為および経理関係を充分知り得る立場にあり、また現に知っていたものである。

原告沢昭二が商法の規定を根拠に執拗に被告会社に対し、帳簿の謄本、送付を求める企図は被告会社代表者沢巌に対するいやがらせであり、かつ私怨に基づくものである。

原告沢昭二は訴外日本交通株式会社(いわゆる日交本社)本店の監査役室を占拠したまま今日に至るまで明渡さない。同人は昭和四八年夏頃現在の法律事務所を設置するまでは右監査役室に常駐し、被告会社に対する内容証明、訴状、準備書面、書証等につき訴外日交本社のコピーを使用し、その使用代金を支払わなかった。しかも主として会社の従業員に命じてコピーをさせた。また同人は訴外日本交通株式会社に対し自己の事務員を提供するよう要求し、提供された事務員の給料は右訴外会社に支払わせた。

このように、原告沢昭二は被告会社を含む日本交通系列会社を私物化し、一方商法の規定を振りかざし帳簿類の閲覧、謄写を求めるのみならず、その謄本の送付までも当然のこととして要求するものである。

以上の経緯から明らかなように本件請求は株主権の行使に名を借りた被告会社をはじめとする日本交通系列各社および被告会社代表者沢巌に対するいやがらせであって仮りに本件決議になんらかの瑕疵があったとしても本訴請求は権利の濫用として許されない。

また原告らの真の目的は原告らの有するいわゆるBグループ(日本交通系列会社のうち、原告らの持株数が発行済株式総数の過半数に満たない会社)の株式を被告会社を含め日本交通系列会社に適正価格以上に売りつけることにあるのであって、本件請求は右目的達成の一手段にすぎない。この点においても前同様本訴請求は権利の濫用として許されない。

四、被告会社の抗弁に対する原告らの答弁

1.訴の利益について。

(一)不知。

(二)争う。仮りに (一)の総会が適法に開かれたとしても、本件総会の取消しうべき瑕疵が治癒され本件訴の利益がなくなるものではない。

2.権利の濫用について

(一)争う。

被告会社主張の協定書、和解調書にはその主張のような前記沢巌の不動産処分行為に対する責任を不問に付するような文言は一切含まれていない。原告らは右沢巌らから右内容の申出を受けたこともなくかつそのようなことを知る由もなかった。したがって、沢巌らの取締役としての個人責任の問題はそもそも当時原告らの判断の対象になっていない。

また、右個人責任の問題は商法第二六六条第一項第五号の問題たる性質を有するから、この問題に関与した右沢巌らの責任は総株主の同意がなければ免除できないのであり、ことに日本交通系列の各会社にとってこの同意は右関与取締役らから十分な資料の開示と説明を受けたうえ、公正な場でなされることが望ましく、限られた株主が限られた資料をもとに軽々に判断すべき性質のものではない。

(二)訴外亡沢春蔵が昭和四七年七月二四日日本交通株式会社本社で死亡した事実、同人がその寝室にしていた部屋のロッカー内に所持していた書類をその息子である原告沢昭二が現在沢法律事務所に保管していること、前記沢巌が同原告に右書類の引渡しを請求したことがあること、沢法律事務所がいわゆる日交ビル三階にあった当時、主として相続税申告のための各資料ならびに前記沢巌が代表者をしていた日交系列会社二社に対する非訟事件の各資料の謄本作成のため、原告沢昭二が事務員屋秀敏をしてコピーをさせたことおよび原告沢昭二が右日交ビル三階の部屋を占有していることは認めるが、その余の事実はすべて争う。

第三、証拠関係<省略>

理由

第一、訴の利益について

成立に争いない乙第一ないし第六号証、被告会社代表者本人尋問の結果を総合すると、被告会社がその主張のとおりの手続を経て昭和四九年一二月七日臨時株主総会を開催し、原告らが特別利害関係人と主張する株主を除いた株主が議決権を行使し主文第一項掲記の本件計算書類を改めて承認する旨の決議がなされていることが認められる。

被告会社は、右決議がなされていることによって、本件決議になんらかの瑕疵があったとしても本件決議を取消す利益はなくなったので本件訴の利益はないと主張する。

しかし、株主は株主総会の決議方法に瑕疵がある場合には常に訴によってこれが取消を求め株主総会の決議が適法に行われるよう求める権利を有するのであって、株主総会の決議方法に瑕疵があるとしてその決議の取消を求める訴の係属中にさきの決議と同一内容の決議が適法になされたとしても以上の権利が失われるものではないと解されること、さきに掲げた証拠によれば、被告会社の行った冒頭記載の臨時株主総会の決議は、本件決議が確定判決により取消されることを条件としてその効力を生ずるものと認められることからみて、原告らはなお本件決議の取消を求める利益を有するものというべく、本件訴の利益はないとの被告会社の主張は採用できない。

第二、請求原因事実について。

一、請求原因1ないし3項の事実は当事者間に争いがない。

二、そこで、まず特別利害関係を有する株主が決議に参加した点において、本件決議の方法が法令に違反するとの原告らの主張について検討する。

本件総会が開催された当時沢巌が被告会社の代表取締役、訴外沢広行が監査役で、かついずれも被告会社の株主であったこと、本件総会において右沢巌、沢広行が本人自身として議決権を行使し、右沢巌が被告会社の株主である訴外深田勝彦の代理人として、また被告会社の株主である訴外日本交通株式会社(いわゆる「日交本社」)、同福田産業株式会社の代表取締役として議決権を行使したことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一および第三号証に弁論の全趣旨をあわせ考えると、右沢巌は代表取締役として本件総会で決議の対象となった主文第一項掲記の計算書類の作成に関与し、右沢広行は監査役として右計算書類の調査に関与したことが認められる。

そこで、計算書類の作成ないし調査に関与した代表取締役、監査役は右計算書類の承認に関する株主総会の決議に関し、商法第二三九条第五項にいう「特別の利害関係を有する者」に該当するかどうかにつき判断するに、当裁判所は「特別の利害関係を有する者」に該当すると解する。けだし、商法第二八四条によれば、計算書類の承認決議後別段の決議なく二年を経過すれば取締役や監査役の責任が解除されるが、右責任解除は株主総会の承認決議に伴う附随的効果とみるべきだからである。したがって、取締役および監査役は計算書類の承認決議において本人自身としても、また他人の代理人もしくは代表者としても議決権を行使することはできない。

よって、本件計算書類の承認に関する決議は商法第二三九条第五項に違反する。

したがって、前記計算書類を承認する旨の本件決議方法には法令に違反する取消事由がある。

なお、成立に争いのない甲第一号証および第二号証の二によれば、前記計算書類承認の本件決議に賛成した株数は一万五九一〇株であること、特別利害関係人たる前記沢巌、沢広行が本人自身他人の代理人ないし代表者として議決権を行使した株数は一万五九一〇株であること、したがって特別利害関係人による議決権行使分を除けば賛成者は全くいなかったことが認められるから、前記決議方法の法令違反が決議の結果に影響を与えたことも明らかである。したがって、本件請求を裁量棄却すべき事由もない。

第三、被告会社の抗弁2(二)(権利の濫用)について。

原告沢昭二、被告会社代表者各本人尋問の結果(各一部)を総合すると、原告らの被相続人沢春蔵は被告会社のほか訴外日本交通株式会社(本社大阪市)系列の会社を創設しその代表取締役をしていたが昭和四七年七月二四日死亡したこと、被告会社代表取締役沢巌は故沢春蔵の甥にあたり多年以上各会社の取締役として経営に参画し故人の信任が厚く、春蔵の死後は以上各会社の多くの代表取締役としてその経営を主宰してきていること、ところが原告らは以上各会社の株主として右沢巌の経営方針に不満、不信の念が強いため右各会社に対し各種議事録等の閲覧、謄写を求めてきたこと、原告沢昭二が前記春蔵の死亡後、同人が保管していた被告会社ないし前記日本交通株式会社の不動産売買契約書、権利証等の一部関係書類を占有して右各会社からの引渡請求に応ぜず、右日本交通株式会社建物の一室の占有を続け、また同会社の従業員を私的な用事に使ったことがあることが認められる。

原告沢昭二が以上のように被告会社等の財産に関する書類を占有し、前記会社の一室の占有を続けたり従業員を私的に使用したことに対する責任の追及は格別として以上の諸事実の存在によっては同原告が株主として本件決議の取消を求めるのが権利の濫用にあたるものとは解されないし、その他被告会社の全立証によるも原告らの本訴請求が権利の濫用にあたるものと断定し難い。

第四、結論

以上の認定によれば、その余の点につき判断するまでもなく原告らの本訴請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 首藤武兵 裁判官 菅野孝久 池田和人)

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